松倉院長コラム 第7回: 私が形成外科医を目指した理由
2017.05.12
私は美容医療の専門家として日々、研究を続けていますが、今回は、そもそも私がなぜ美容医療を究めたいと思ったのかについて、お話してみたいと思います。
その話をすることになると、私がどうして数ある診療科の中から「形成外科」を選んだか、というお話をする必要があるのですね。
医学についての知識は、北里大学医学部で学びました。最初の段階では、一般外科か整形外科を選ぼう、と思っていたのです。ところが所属していたスキー部で、兄のように慕っていた先輩が、形成外科に進んだ。その先輩のお父さんは心臓外科の教授だったので私は意外に思い、「どうして形成外科を選んだんですか?」と聞いてみました。
すると先輩は、「形成外科はまだ日本では新しい領域の診療科だから、俺たちが研究したことが世の中を変えていくことになるんだ」と答えたのです。
そこで、それまでまったく興味も抱いていなかった形成外科についてあらためて調べてみると、北里大学は形成外科のパイオニア的な大学で、こぢんまりとした医局しかなかったり、整形外科や皮膚科の下に補助的に位置していた他の大学と比べ、医局員が全体で60~70人と多く、研究体制もしっかりしていることがわかりました。
しかも、形成外科医になるためには、外科を1年間、整形外科を1年間、麻酔科を3カ月、救命センターを半年間研修しなければなりません。つまり、いろいろな科で幅広い勉強をすることができる、というのも魅力でした。
大学で出会った教授は、アメリカで形成外科の免許をとった方でしたが、アメリカでは6年間外科を経験しないと形成外科になれない、ということを聞きました(実際に、私もアメリカで「形成外科医です」というと、すごいね!と褒められます)。
形成外科は面白そうだし、勉強のシステムもいいなと思い、私は形成外科を目指すことにしたのです。
形成外科ではいろいろな経験を積むことができました。
食道がんの患者さんには、食道を切除したあとに、腸の一部をとってきて、血管を縫合し、食道の代わりにしたり。これは指を切断した人の神経や血管をつないで再建する技術を応用し、顕微鏡で行う手術です。また、脳の頭蓋骨に腫瘍が出来ている場合、そこを取り除いた後は形成外科医がどうにかしてその抜け落ちた部分を補うわけです。臓器のことも、骨のことも、体のことは何でもわかっていないといけない。多岐にわたって勉強が必要だという理由がよくわかりました。
当時、私は、顕微鏡を使って行う手術「マイクロサージャリー」に夢中でした。
マイクロサージャリーとは、文字通り、マイクロ(微小)なサージャリー(外科)を行うもので、顕微鏡を覗きながら、特殊な器具を用いて、血管や神経の縫合を行います。事故や手術などで失った欠損部に、他の部位からとった骨や筋肉、皮膚、神経などの組織を移植します。
このような技法に比べて、美容についてはあまり興味を持てずにいました。今だから言えることですが、内心、「医者のやることではないな」とさえ思っていたのです。
ところが、そんな私が「美容」に心を動かされる出来事がありました。その話については、次回お話ししましょう。